kanaeにまつわる人たち

kanaeを作った人、kanaeを使う人、kanaeを広める人。
kanaeの魅力について、kanaeにまつわる人たちにお話を伺いました。

実感のこもったデザイン思考

日々の料理に「kanaeだえん土鍋」の中型と浅型を使いこなすrinao designの小野里奈さんは、kanae製品のデザイナー。よく作るのは、その時々に美味しい野菜を大きめに切り並べ、多めのオリーブオイルとチーズをかけてオーブンで焼くだけで、堂々たるおかずになります。もう少し充実させたいときは、半割りにしたゆで卵を加えて焼くのもおすすめ。もう一つの浅型もいろんな献立を試みている最中で、珍しいところでは茶碗蒸し(土鍋にそのまま)なども。また、kanaeが作られている四日市名物の「とんてき」は、分厚い豚肉のステーキなのですが、土鍋が得意なじっくり弱火焼きで、ふっくらと焼き上げることができます。

kanaeの生まれた背景には、土鍋を日常使いにしたい、という作り手の思いがありました。 熱が穏やかに伝わり、蓄熱性が高い土鍋は、じっくり焼いたり、オーブン調理にはあつらえ向きの鍋ですが、土鍋というだけで、冬に寄せ鍋という印象が強く、秋冬以外は店頭からも姿を消してしまいます。そこで、調理鍋として土鍋を毎日の料理に使ってもらうことを出発点に、作り手と何度も話し合い、試作と修正を繰り返し、たどり着いただえんの形状。吹きこぼれを緩和するための広い縁があることで、オーブン焼きや炒め物など、調理からそのまま器として食卓へ出しても違和感なく馴染みます。卓上ではもちろん、収納する時にも場所をとりませんし、洗いカゴも占有せず、他の食器と一緒に乾かせます。

また、特長的な蓋の持ち手や本体の持ち手は、ミトンをしたままでもしっかり保持できる形にし、一般的な土鍋よりも肉厚を薄く仕上げることで女性でも扱いやすくなるように考えられています。すでに次のkanae製品についても話し合いを重ねているということなので、次はどのような使い心地の道具が生まれてくのか楽しみです。

美味しい×楽しむ=好きな仕事

料理と写真を生業とするminokamoさん。屋号は出身地の岐阜県美濃加茂市からで、その名の通り、郷土料理にまつわるレシピ提案や器まわりの提案など、仕事は多岐にわたります。今回は「たとえばこんな使い方」の中で、kanaeを使った料理の提案と撮影をお願いしました。料理を作るのはもちろん、友人を招いての宴も大好きなminokamoさん、広いテラスから光が差し込む、明るいリビングでの撮影になりました。

使いはじめたころ、いただきものの伊勢海老があり、半身を鍋の蓋に乗せて食卓へ食べ始めてからは蓋をガラ入れにして使ったらちょうど良かったというエピソードなど、早速使い心地などを伺いながら撮影の準備は進みます。kanaeは他の土鍋に比べて火の通りが早く、フライパンのようにも使えるので、少し使い慣れてきたら、朝食にウインナーとハムエッグ、にも良いかも、そのまま食卓に出せるし。と、少し上級者向けの使い方も。

仕事柄、全国各地で出会った器もたくさん使いこなすため、撮影中も器(kanae)の使い方を次々と提案してくれます。

料理が美味しく自然に写るように、陽の傾きも気にかけながら、料理と撮影を同時進行していきます。なんとか陽が落ちる前に予定のカット数を撮り終えて、おつかれさまの宴です。浅鍋で炊いたパエリアも、鶏の照り焼きもどれも美味しくいただきました。(カレーもお昼にしっかりといただいております。)

これからも、季節柄や新しい商品など、折に触れてminokamoさんには料理の料理の楽しさをご提案いただきますので、美味しい写真をたのしみにしていてください。

自身の経験が説得力のある接客に

2005年、東京の二子玉川のお店から始まり、今は大阪の淀屋橋にも店舗を構え、15年を迎えるKOHORO。主に作家ものの器を中心に、生活のものを丁寧に扱い紹介するお店。

kanaeも2019年の発売当初からご紹介いただいている数少ないお店「道具は特に使ってみないと自分たちでは売れないじゃないですか」と恩田さん。ちょうどお店で取り扱うための3~4人向けの鍋を探していた頃、kanaeと出会い、まずはご自身でブラウンの中型を購入してみたそう。

洗ってみて他の土鍋との違い(一般的な土鍋はシンクの中で手に持って洗うには大きかったり、重かったりするが、kanaeは鋳込み成型による軽さが幸いし、だ円であるがゆえの取り回しやすさ、持ち手の掴みやすさ)を実感。鍋料理だけではなく、日々、野菜を蒸したり、炒めたり、名もなき料理でも引け目を感じない、良い調理鍋がお店のレパートリーに加わったと感じているようで、購入前の方には、さまざまな調理ができる話を、購入した方とは使い勝手の話で盛り上がっているらしい。これからはその経験を、スタッフみんなで共有するため、それぞれのお家で試し使いをしてくれるそうです。

さまざまな問いをかなえていく

kanae製品のものづくりの中心人物、熊本剛さんは、土鍋の生産で有名な四日市市にある産地問屋、株式会社三陶の専務取締役です。あまり耳なじみのない産地問屋(生産地問屋とも)という仕事ですが、特定の製品に関する業種が集中して立地しているところで生産者に代わって販売業務を一手に引き受ける卸売商のことを指します。また、販売だけではなく製品の企画開発も行いますが、その地域の作り手の得手不得手を把握した上でものづくりを統括する、地域産業の旗振り役でもあります。これまではデザイナーとの協業を積極的に行ってきた印象のあまりない四日市ですが、今回、デザイナーも交えてのものづくりを手掛けたきっかけから伺いました。

はじめは正直、土鍋なんてどんな人が使うの?という思いもある中、婿養子として三陶へと転職し、郷に入っては郷に従うがごとく業務に携わっていました。しかし、いざ調べ始めたら、じっくり火を通すことで食材の旨みを引き出す耐熱陶器の良さや使い方がお客様まで伝わりきっていないことが分かり、もどかしい思いを感じていました。ただ一方、うまく使い方の提案ができれば、土鍋は冬だけではなく、一年中使えるもの、という確信だけは持っていました。

その後、縁あってデザイナーとの出会いに恵まれましたが、初めは仕事をするつもりもなく、問屋の仕事を案内するだけのつもりでした。しかし、小野さんがこれまで手掛けてきた製品に込められた思いや、作り手との関わり方などを聞くうちに、一緒にものづくりを考えてみたいと思うようになりました。後になって聞いたところによると、小野さんもまったく同じで、問屋と仕事をするのは難しいだろうと思っていたそうですが、熊本さんの客観的な視点や、産地に対する思いを聞くにつれて、三陶さんとなら仕事ができるかも、と思ったそうです。

今回、kanaeのプロジェクトを手掛けたことで、製品はもとより、写真やグラフィックデザインの重要性も知ることができ、既存の商品開発にも良い影響が生まれています。前よりも、社内や作り手との対話が増えました。よく考えるようになったということでしょうね。ただ、あくまで問屋であることを中心に、幅広く良い商品を配ることをバランスよく行っていきたいと考えています。

kanaeだえん土鍋も、3サイズ出揃ったところで、熊本家でのおすすめの使い方を伺いました。土鍋は、蒸し料理と相性の良い調理道具なので、モヤシを活用した蒸し料理に使う事が多いそうです。モヤシ一袋分を鍋に敷き詰めたら、白菜、シメジ、豚肉を載せて蒸し焼きにします。これなら蒸し板やセイロがなくても大丈夫だし、豚肉の旨味が全体に広がってふっくらと、食べ応えのあるご馳走になります。

土鍋は煮込み料理も得意です。熊本家では、下茹でした大根と鶏手羽を、生姜醤油で煮込むだけの「鶏手羽大根」が人気煮込みメニューのひとつです。蓄熱性が高いことで、加熱後は火を止めておいても、余熱で味がしっかり染み込みます。土鍋が十分温まるまでは目を配り、その後は火を止めて置いておけるので、家事の時間配分もしやすくなります。

もちろん、ご飯もおいしく炊けます。一般的な土鍋よりも薄手なので、火加減は強火を避けて中火で。3合なら15分を目安に、最初から最後まで中火で加熱し、あとは火を消し、30分ほど蒸らすだけ。だえん土鍋で炊き上げる白米は、眩しいくらいの出来栄えになりますので、一度は試して欲しいですね。

これから、より大事なのは、問屋だからといって「売れたら良し」ではなく「使ってもらって喜んでもらえる」こと。さらには、kanaeがきっかけになって、土鍋全般が見直されれば、こんなに嬉しいことはありません。これからも、使う人・作る人・売る人、それぞれの問いに応えていきたいと思います。